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  | HOME | >活動記録>>発言録2014年6月4日(午前) 衆議院文部科学委員会


学校教育法・国立大学法人法改正案の参考人質疑
    
参考人の方々は以下の通りです
平野俊夫(国立大学法人大阪大学総長)  田中愛治(早稲田大学理事、早稲田大学政治経済学術院教授)  池内了(名古屋大学名誉教授)


○青木愛
 生活の党の青木と申します。きょうは、三名の参考人の皆様方に貴重なお時間をいただきまして御出席をいただき、ありがとうございます。
 まず私の方からは、今回の法案で、学長の権限が強化され、また責任の所在も明確になるということなんですが、今後この学長に求められるさらなる役割、どのようなことが期待をされていくのか。大阪大学の資料を拝見いたしますと、基金も創設をされておられまして、今後、学長が外に出て、資金繰りですとか、あるいは優秀な人材を集めてくるとか、具体的に学長に求められる役割はどういうものなのかということをお伺いさせていただきたいと思います。
 やはりこの法案について、経済界からの意向というものが強く反映をされた形になっているというふうに私も思います。今後この学長の役割とともに、産業界と大学の産学の連携がどのような形でより具体的に推進されていくのか、その点をまずお伺いをさせていただきたいと思います。
 それぞれのお立場から、三名の参考人にぜひ伺わせていただきたいと思います。


○平野参考人

 御指摘ありがとうございます。このことによって、先ほどから何回も言っていますけれども、学長の役割というのは、やはり、志あるいは理念、そういう価値観を全構成員にいかに合意形成というか共通認識にしていくかというのが一番大きいと思います。
 今御指摘にありました、その上でどういうことが具体的にあるかと言われたときに、もちろん、そういう志、理念を持って大学をよくしていくんだという大きな目標があるとすれば、それにいきなり何かぱっと夢のようなことが実現するわけではありません。それは、その夢を実現するためには、やはり目の前の一歩一歩をやっていく必要がある。それは地道な努力です。ただし、その夢に向かってやっていくということが重要で、ばらばらに一歩一歩やっていってはいけない。
 そういう中で、当然、大学の使命を果たすためには、今御指摘のあったように、例えばお金の問題もあります。それはもちろん国から運営交付金もいただいておりますけれども、大学独自のそういう自助努力もしなければならないこともあります。
 それから、当然、その前に大学の構成員の意識改革をしていかなければならないし、それから、例えば教育環境にいたしましても、世界に開かれた大学になるような教育環境を、例えば学事暦一つとりましてもそうですけれども、いろいろな教育環境を整えていく、そういう地道な努力、もちろんその中には、世界に向かって教育の質を高めていくということもあります。
 それから、産学連携という御指摘もありましたけれども、産学連携も大学の使命の一つなんです。産学連携をしたらどうということはなくて、それは、大きな大学の使命の中に、大学は学問の府であり、人材育成を通じて社会に貢献するんだ。さらに私は、二十一世紀においては、学問を介して調和ある多様性をグローバル社会に創造することによって人類の心豊かな発展に貢献するんだと掲げていますけれども、その一環として、当然、社会に向いた大学として社学連携も積極的に進めていかなければならないと思いますし、産学連携も社会還元の一環として、それをしたら大学というものであります。
 ただし、大学の基本は、大阪大学は二十二世紀に輝くというのを掲げていますから、非常に長期的な展望に立って、単に専門家を育てるわけでもありません、やはり非常にアカデミックなベーシックな基礎学問を地道に追求していく、それが最も大事なことで、その中に産学連携というのも社会科目としてある。
 とにかく、いろいろありますが、これは学長一人でできません。大阪大学の場合は、それは当然、多くの副学長、財務担当であるとか研究担当、教育担当、産学連携担当とか社学連携担当とか国際問題担当とか、いろいろ連携してやっている。大事なのは、目の前の一つ一つの小さなことを目標に向かって統一的にやっていくということであると思います。そのための意識改革と価値観の共有、それが重要だと思います。


○田中参考人

 田中でございます。御質問の点にお答えできればと思いますが、私自身が学長を務めたことがございませんので限られた経験になると思いますけれども、日本の大学の場合、設置基準にかかわらず、その担うべき役割はさまざまに分かれていると思います。
 大きく分けて三つだろうと思いますが、世界のトップレベルの研究を推進していくという、研究を中心とするような、また、大学院生、研究者を育てる大学と、それから、全国の学生を丁寧に教育していくべき役割を持つ大学、そして、その地域に根差して、その地域の振興に貢献する大学というふうにあると思います。それは設置基準にかかわらずと申し上げておりまして、国立大学だから地域振興で、私立大学だから研究しないということはなく、私立大学でも、設置形態とは別に、役割というものがあると思います。
 したがいまして、学長もそれぞれの役割が異なると思いますが、それらの異なる役割を超えて共通する、学長に期待されるものというのは、学長のもとで仕事をしておりまして感じるのは、やはり、その大学の役割を明確に示してビジョンを示すことで、それは平野先生もおっしゃっているとおりだと思いますが、そのことをいかに教職員と共有するかというその説得力のあるビジョン、また、ぶれないということですが、大きな大局的な筋を示し、その大学が本来持つべき役割というものを明確に自覚、そして教職員にそれを自覚させて、それを掲げて進んでいただくということが重要だと思います。
 もちろんその中には、例えば研究を推進していく大学の場合には、産学協同により研究を協力して進める場合もあり、また、学生がインターンシップやフィールドワークに行って、民間の企業やもしくは公官庁の中で仕事をさせていただくことによって教育が非常に伸びる場合もございますので、そういうような役割も必要で、象牙の塔といいますか、学問の府に閉じこもらずに、多角的な外との交流を積極的にするというのも、それぞれの役割を持つ大学の学長としてそれなりにおありになると思います。そういうことも重要だと思っています。もちろんそれは、ファンドレージングという意味での資金集め、寄附を集めるということも含んでいると思いますけれども。
 ただ、やはり根幹は、その大学がどういう設置形態であれ、その大学が持っている目的を明確に自覚し、その方針のもとでのビジョンを教職員と共有していただくということが最大であろうと思います。
 そのことに関しては、妥協はせずに、しっかりと筋を通していただくということが学長に求められるものであろうというふうに存じております。
 以上でございます。


○池内参考人

 大学というところは、まさしく公共財ですよね。国民自身一人一人がこういうものを持つ、あるいは、そこから生まれたものを共有する、あるいは、それを将来への糧に伸びていく、そういう公共財である。公共財であるということをさまざまな形で国民の中に溶け込ませていくというのかな、そういうのが僕は学長の役割であると思っています。
 無論、公共財というのは学問に裏打ちされていて、そして、特に大学は、文化の基本的な層を担う、長期的な視野に立って物事を考える、そういう先達の役割を果たす。まさに学長というのは、それを象徴する人間でなければならないというふうに思っております。
 産学の連携に関していいますと、私自身は、むげに全面的にそれを拒否するということにはならない。しかしながら、産業界というのは、どうしても近視眼的なというか、短い時間のローテーションで物事を考える。それがまさしく産業界としての役割でもあるんでしょうが、大学というのは、それとは違った論理で組み合わさらなければならないというわけです。つまり、近視眼的な成果を求めない。じっくりと物事をより次の世代に生かせるような技術の展開に持っていくとか、そういうものとして産学連携というのを考えていくということは僕はあり得ると思います。その意味では、大学がイニシアチブをとるということが非常に重要なわけです。
 ありていに言いまして、そんなに金をかけてやる産学連携なんていうのは、それこそ専門学校的にやればいいわけで、本当に知的に基本的な、基礎的なレベルからやる場合には、それはそんなに金はかからない。しかし、まさに知的な能力が必要である。そういうものをいかに生かしていくかということとして考えるべきであろうと。
 だから、それもその意味では公共財なんです、大学が持っている知的な生産物をいかに生かしていくかという公共財で。その一つの生かし方が産学連携であるかもしれないけれども、その別の生かし方は、無論、さまざまな教育の場、あるいは、博物館とか科学館とかそういう啓蒙の場で生かされていく、そういうものであるというふうに思っています。
 だから、そういうことを大学が、みんなの知的世界が豊かになるよということを示す、象徴するのは、まさに学長としての非常に重要な役割ではないかと思っています。
 以上です。



○青木愛

 時間でありますので、この学教法の改正については、国立大学、私立大学、公立大学、一律に改正をするわけなんですが、大学の規模も、また研究内容等々、異なるわけなんですが、この一律の改正について御所見がありましたら、一言ずつ三名の参考人に、簡単で結構ですので、いただければ助かります。


○平野参考人

 済みません、ちょっと質問の御趣旨がよくわからないんですけれども、一律の改正についての見解ということでございますけれども、今御指摘にありましたように、第九十三条関係は、これは私立大学も全て含んでいるわけですね。法人法というのは、これはあくまでも国立大学法人法の改正ですから、当然これは国立大学だけでありますね。
 一律の改正についてのコメントというのは、恐らく、私はよくわかりませんが、私立大学の場合に、国立大学法人法、今回の十二条に関係するようなことは、学長の選考ですね、ちょっと私は正確でないのでわかりませんが、多分、それぞれの私立大学の事情で決まっているんだろう、それが国立大学法人法で変えるというのは趣旨が合わないんだろう、だからこういうことになったんだろうと思うんですけれども、ちょっと済みません。


○田中参考人

 今の御質問でございますけれども、設置形態が異なる、また、その設置形態を超えて役割も異なるというのが、私も申し上げたとおり、日本の大学の多様性でございますので、今回の学校教育法の改正というものが、もちろん一律に施行されてそれが適用されることでございますけれども、そのことが問題であるとは特に考えませんが、ただ、それによって予測されている事態というもの、ある大学では予測されている事態はある大学では起こらない、もしくは、予測されていない事態がある大学では起こるということになろうと思っておりますので、それが先ほど申し上げた、何らかの歯どめが必要であるということだろうと思っています。オンブズマンでありますとか何かのモニターのような機関が重要だろうというのは、そういうところでございます。
 ただ、大事なことは、大学が設置形態また本来持っている役割をよく自覚しておれば、今回の学校教育法の改正または国立大学法人法の改正において、どのように自分たちがそれを運用していくかということについては、おのずと大学ごとに異なる運用の仕方が見えてくると思います。法の本来の趣旨をよく理解した上で、本来自分たちの大学の目的に沿った形で運用するということが重要だろうと存じております。
 一番怖いのは、法がこうなのだからこうしなければならないという形で強引な議論をされる方が出てくれば、それが教授会の側であっても学長の側であっても同じだと思いますが、それは非常にゆがむと思いますので、本来の大学の持つべき使命に対してこの法改正をどのように適正に運用するかということが肝要であろうかと存じております。
 以上でございます。


○池内参考人

 私自身は、私立大学に網をかけるという意味で、非常に危険であると思っております。私立大学へも一般化できる。それで、現実に例えば私立大学では、教授会を議決機関として定義しているところもあるわけです。そこは法律違反になっちゃうわけですよ。
 そういうふうに、まさに今言われたように、大学の設置形態ごとのさまざまな形態があるんだから、その多様性は認めるべきです。
 だから、こういうふうに一律に網をかけるという格好では、私自身は非常に反対の気持ちです。



○青木愛

 質問を終わります。大変貴重な御意見、ありがとうございました。