| HOME | >活動記録>>発言録2014年11月5日 衆議院文部科学委員会


原子力損害の補完的な補償に関する条約の実施に伴う原子力損害賠償資金の補助等に関する法律案
原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害補償契約に関する法律の一部を改正する法律案
に対する質疑

    

○青木愛

 生活の党の青木でございます。質問が重なるところが多々ございますが、どうぞよろしくお願いいたします。
 このたびの原子力損害の補完的な補償条約、CSCの加盟は、今後日本のメーカーの原発の輸出の後押しにつながる可能性があることや、また、今後の原発事故に対する補償額を減らす口実につながりかねないこと、また、近隣諸国、特に中国、韓国などが締結をしていないことなどを勘案しますと、なかなか賛同しがたい現状と考えておるところでございます。
 先ほども質問がございました平成二十年の十二月に出されました文科省の検討会の報告書、これによりますと、我が国は、原子力損害賠償に関する国際条約に直ちに加盟しなければならない状況にはない、むしろ参加すべきではないという報告の中で、その理由が三つ挙げられておりました。
 一つは、我が国は既に原子力先進国水準の原子力損害賠償制度を有していること、二点目として、ほかの原子力利用国と陸続きで国境を接していないこと、三点目といたしまして、近隣アジア諸国等が国際条約に加盟していないことを挙げております。
 この報告書当時から状況には変化はないというふうに思いますが、福島の原発事故を起こしたということが唯一挙げられるかとは思いますけれども、今あえてこのCSCに加盟しようとする理由について、私からもお伺いをさせていただきます。


○田中政府参考人

 先生今御指摘の報告書でございますけれども、原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会、文部科学省に設置されたものでございます。
 平成二十一年の原賠法改正に向けた検討ということを行ったわけですけれども、その中で三点、まさに先生今御指摘のところを挙げて、こういうような理由から、直ちに原子力損害賠償の国際的枠組みに参加しなければならない状況にはないということが、平成二十一年当時指摘をしてございました。
 他方、これまでも御説明申し上げているとおりでありますけれども、従来から、原子力損害賠償制度の国際的枠組みに関しては、アジア諸国が参加する可能性、あるいは、我が国原子力損害賠償制度との整合性などを踏まえまして、三系統ある条約のうちCSCを最も有力な候補として、加盟に向けた検討を行ってきたところでございます。
 そうした中で、特に福島原子力発電所事故後におきましては、国際的な責務ということを感じている我が国、あるいは近隣諸国、アジア環太平洋地域においての国際的な原子力損害賠償の枠組みの構築に努めていくことが必須であるというようなことが認識されていることから、早期にCSCを締結する必要があるというふうに考えているところでございます。



○青木愛

 福島原発事故を起こした日本の責務というところは理解をするところではございますが、五カ国の加盟と総熱出力が要件で、日本が加盟することによって発効されるということでございますが、外務省の資料によりますと、既に五カ国の締結と十三カ国の署名に至っているというふうに承知をいたしております。また、この署名国の中には、残念なことですが、原子力利用を急速に拡大しようとしている国もございます。
 今後、日本におけるエネルギー基本計画におきましては、原発の依存度を可能な限り低減をしていくということは約束をされているというふうに思っています。
 今後、本条約内における我が国の重要性は低下をしていくのではないか、また、我が国にとってもまた意義が薄れていくのではないかというふうに予想いたしますけれども、御見解を伺います。


○中村政府参考人

 お答え申し上げます。委員御指摘のとおり、今後原発依存度低下が予見されるというような状況はあるかと思いますが、原子力事故に対する備えといたしましては、廃炉が終了するまで実施することが不可欠であるというように認識をしているところでございます。
 また、他国で発生をした原子力事故によって我が国の国民が損害を受けた場合への備えとして、国際的な原子力損害賠償制度を構築するということは大変重要なことであるというように認識をしているところでございます。
 このため、国会の御承認をいただきまして、我が国がCSCを締結することを引き続きお願いをしてまいりたいというように考えている次第でございます。



○青木愛

 事故に対する備えということをおっしゃられたわけではございますが、先ほどからそれぞれの委員の先生方からも指摘がありますように、仮に日本で事故が発生した場合、他の締約国から得られる拠出金は数十億円という単位でございます。福島第一原子力発電所事故の損害賠償額は、被災者に対する損害賠償や汚染水対策など全て含めて十一兆円という試算も出されております。一たび過酷事故が起きますとその賠償額は、条約による拠出金、また国内法の賠償措置額千二百億、これらを足したものでは到底賄えるものではありません。
 そこでまず第一点、お伺いをさせていただきますが、国内で再び原発事故が起きた際の被災者への損害賠償の減額、あるいは除染にかかる費用など、その減額にこの条約締結が口実に使われる可能性があるのではないかという指摘もあります。この点についてはいかがでしょうか。


○田中政府参考人

 我が国の原子力損害賠償制度は、原子力事業者に無限責任を課してございます。したがいまして、仮に原賠法の賠償措置あるいはCSCの拠出金によって賄うことができないような場合であっても、原子力事業者が賠償を全て行うということは変わりがないというふうに考えているところでございます。



○青木愛

 ありがとうございます。無限補償は変わらないということを確認させていただきました。
 二点目といたしまして、政府は、外国が持つ汚染水対策や廃炉等にかかわる技術導入ということを目的としているのだということを指摘しておられますけれども、アメリカだけではなくて、アレバなど、フランスなどヨーロッパ諸国の知見や技術導入というものも必要ではないかというふうに思っておりますけれども、これについてはどういう枠組みで考えていらっしゃるのでしょうか。


○多田政府参考人

 お答えを申し上げます。事故後、現状でございますけれども、フランスあるいはイギリスといったヨーロッパの企業の技術を用いて浄化装置などを利用しております。
 私どもといたしましては、この前例のない困難な作業、アメリカのみならず、ヨーロッパを含めて、我が国の企業も含めてでございますけれども、内外の知見を集めて、そしてこの困難な作業をしっかり乗り切っていきたい、このように考えております。



○青木愛

 そうしますと、ヨーロッパ諸国の技術導入については、条約等の締結の必要性についてはどのように考えていらっしゃるのでしょうか。


○多田政府参考人

 お答え申し上げます。確かに、ヨーロッパにつきましてはCSC条約には参加していない、こういう現状にございます。
 アメリカの企業の方からは、実際にこのCSCが未発効の段階で仮に今後福島でトラブルが生じた場合につきまして、裁判管轄の問題、あるいは事業者への責任集中の問題、こうしたことについて懸念があるということで、実際の廃炉・汚染水対策への参画をちゅうちょする向きもあると聞いておりますが、他方で、フランスの方からは、同じようなリスクを懸念しているという声は、私どもの耳には現在入ってきていない、こういう状況にございます。



○青木愛

 フランスなどからは入ってきていないということでございますけれども、そうした中でも技術導入に対する協力はいただいているということでよろしいですか。


○多田政府参考人

 御指摘のとおりでございまして、フランスの企業あるいはイギリスの企業から、廃炉・汚染水対策事業について既に参画をいただいております。
 一言補足させていただきますと、アメリカの企業にも参加をいただいているところはございます。他方で、ポテンシャルを持っている、つまり技術を持っているにもかかわらず、まだ私どもの方に、例えば説明会などには参加をしていただけるんですけれども、公募という形についてはまだちゅうちょされて手を挙げてきてこられない、こういった企業がアメリカには存在する、こういったことも現状にございます。



○青木愛

 やはり、世界各国の英知を結集していただくというのは本当に必要なことだというふうに思っておりますけれども、その辺のちょっと不整合な感を否めないというところがございます。
 三点目といたしまして、一番懸念をしている点でございますけれども、政府の説明する条約の加盟の理由として特に国際貢献ということをおっしゃってはおられるものの、やはりその背景には、原発の輸出促進という側面があるのではないかというふうに考えておりますが、その点について御見解をぜひお伺いをさせていただきたいと思います。


○田中政府参考人

 CSC締結の目的ということについてでございます。原子力事故は決して起こしてはいけないという強い信念を持って進めておりますけれども、万々が一起こった場合の国際的な体制を整備するということにつきましては、原子力事故を実際に起こしてしまった当事国としての責務だというふうに考えてございます。CSCの締結により、我が国の原子力事故に対する姿勢ということを国際的に明確に示すことになるというふうに思ってございます。
 また、我が国の原子力損害賠償制度が国際標準に適合したものであるということが海外にも認知されるということで、福島原子力発電所事故の廃炉あるいは汚染水作業に、外国の企業、特に米国企業が参入するに当たっての活動環境ということが明確になるということにもつながるというふうに考えてございます。
 こうした点に鑑みて、CSCの締結及び関連国内法の整備ということを行おうというふうに御審議いただいているところでございまして、原発輸出の促進ということを目的とするということではございません。



○青木愛

 政府は、今回CSCを締結しようとする理由といたしまして、原子力事業者への責任集中、この制度が我が国の原子力賠償制度となじむということを挙げておられます。そして、原発メーカーの免責を含むこの条約の締結というのは、やはり、日本からの原発輸出の環境整備を行うものにほかならないというふうに考えられるわけであります。
 そもそも、日本におきましても原発メーカーを免責する制度を採用しております。そのことによって、実態として、現在、被害者の救済の程度を下げてしまっているのではないかというふうに考えております。日本が民間の責任保険や政府補償等の制度を設けてはいるものの、やはり賠償の措置額が低すぎるというふうに考えております。
 原発メーカーにも応分の負担をしてもらうという形でこの賠償措置額を上げていくべきではないかというふうにも考えるのですが、その点についてはいかがでしょうか。


○田中政府参考人

 原子力損害が発生した場合に原子力事業者に賠償責任を集中させるということは、現行原賠法あるいはCSCその他の国際的な原子力損害賠償に関する共通のルールになってございます。
 これらは、賠償請求の相手方ということを容易に認識することができるという点において被害者の保護ということに資するものであることから、原子力損害賠償制度としては合理的なものであろうというふうに考えているところでございます。



○青木愛

 そのような制度の中でありますと、原発のプラントのメーカーさんは責任が逃れられるといいますか、免責されているという状況の中でこうした条約を締結して参加をしていくということは、やはりどうしても原発の輸出ということを疑念として感じざるを得ないわけでございますが、この条約締結とは直接関係がないとおっしゃいましても、原発の輸出ということについてはどのようにお考えになっていらっしゃるのでしょうか、そもそもとして。


○多田政府参考人

 お答え申し上げます。原発の輸出の一般論でございます。我が国の原子力発電に関する技術は非常に高いレベルを世界の中でも保有しております。したがいまして、先般の福島第一の事故後であっても、世界各国から我が国の原子力技術を求める御要望は届いてきているところでございます。
 今回の事故の経験も踏まえ、原子力発電という、原子力の平和利用という形で我が国として世界に貢献していく一つの手段であるというふうに認識をいたしております。



○青木愛

 この原発輸出ということについてはぜひ下村大臣にもその御所見をお伺いをさせていただきたいというふうに思っておりますが、今、日本が行うべきことは、このCSCの締結に応じた国内法の制度の小手先の手直しではなくて、やはり、日本の原子力損害賠償制度そのものの抜本的な改正ではないかというふうに考えております。
 今指摘をいたしましたように、賠償措置額の拡充を図るためには、やはり、原発メーカーも巻き込む形で進めることも一案ではないかというふうに考えているところでございます。
 そして、もう一点お伺いをしておきたいのは、これは条約加盟を前提とした質問で、あえて質問させていただきますけれども、我が国が、原子力事業者に無限責任を負わせた上で政府が必要な援助を行うという制度を採用しております。それに対してCSCでは、事故発生国が定める義務的な賠償措置額と加盟各国からの拠出金を超える部分は事故発生国の制度によるものとされています。
 拠出金は、加盟国が我が国を含む六カ国であれば、最高でも数百億円規模のようでございます。事故発生国が三億SDRぎりぎりの賠償措置額と拠出金以上の責任は誰も負わないという制度を採用している国があったとして、総額で一千億円に満たない程度の原資の中でしか賠償されないということになると思います。
 福島の経験と責任を負っている日本といたしまして、仮に条約を締結するのであれば、単にでき合いのこの条約に参加をするという姿勢ではなく、世界の人々が被害を受けてはなりませんけれども、仮にその場合があったとして、そのときに適切な賠償がなされるように、他国にも日本のような事業者の無限責任と政府の支援というその制度を導入させるような条約の締結ということも考えられるのではないか。それくらいの覚悟が持てなければ、逆に言えば原発の安全を保証できないということだというふうに思います。
 この点についてはいかがでしょうか。


○中村政府参考人

 お答え申し上げます。CSCにつきましては、何度か申し上げておりますけれども、環太平洋地域を中心に締結、署名をされておりまして、将来的にアジア太平洋地域に共通の原子力損害賠償制度となることが期待をされているものでありますけれども、ほかの条約と比べましても、最低賠償措置額ですとか拠出金制度といったもので被害者保護にも十分配慮をしているというように考えているところでございます。
 CSC条約につきましては、特に、事業者が負う賠償責任額の上限を決めているものではございません。原子力事故による損害額が賠償措置額と拠出金の合計額を上回った場合には、各国の国内法に従って対応がなされるということになると承知をしております。
 したがいまして、締約国の原子力事業者の責任に上限がないこともCSCは許容しているというように考えているところでございます。



○青木愛

 最後に、特に原発輸出ということについてぜひ下村大臣の御所見をいただきたいというふうに思います。
 今伺ってきたその制度設計の中で、決して日本として無責任な態度はとれないというふうに思っております。福島原発事故を起こした日本として、世界に対して責任があるということは十分理解をいたしております。ただ、どのように責任を果たすのか、その国際貢献のやはり中身が問題だというふうに考えます。
 まずは福島原発の収束。現存する原発についても、廃炉とごみの処理の技術、これをまず確立することが責任を果たすことの一点だというふうに思います。
 そしてもう一つは、原発の再稼働、これもごみをふやしていくだけであります。ただ、この再稼働以上にやってはならないことが、やはり原発の輸出だというふうに考えております。いまだ事故の収束も、そして被害者の救済もめどが立たない中で、世界を同じ危険に巻き込む可能性がある原発をみずからの利益のために輸出をするということはあってはならないし、たとえ他国がその輸出を望んだとしても、日本の現状を伝えて、同じ轍を踏ませない、そうした役割、使命が日本にあるのではないかと率直に思うわけでございますけれども、ぜひ、教育問題をつかさどる、そのトップにおられる下村大臣の御所見を伺わせていただきたいと存じます。


○下村国務大臣

 先ほど政府参考人から答弁があったとおりでありますが、最も世界の中で安全確認の基準を高めて、そして世界から信頼をされる。そういう中、要望があった国に対して我が国は、適切な対応をするということは、これは必要なことであるというふうに考えております。



○青木愛

 ただ、やはり原発の絶対安全ということはあり得ないことであります。まだ福島の事故の収束はできておりません。どのようにこれをおさめていくかという、まだこれから世界の技術と英知を結集して取り組まなければならない状況にある中で、その事故を経験した、起こしてしまった日本が、事故が起きた後に何の保証もない中で原発の輸出をしていくということは、これは教育的観点からももう少し下村大臣にもお考えいただきたいなと。
 常識的に考えて、自分の利益のために、まだ日本がこの現状の中で世界各国をまた同じ惨禍に巻き込むのか。事故の後、あれだけ怖い思いをし、そして今でも苦しんでおられる方がいる中で、むしろ日本はそうした現状を伝えていくべきなのではないかというふうに考えます。
 東洋思想を持つ日本は、やはり、自然との共生、調和というものをその理念として捉えているわけであります。今、地球環境あるいは自然との共生という観点からも、たしか数千万種類の生物が生きているというふうに思いますけれども、そうした生物にとりましては、この条約というものは人間の世界でやっていることであって、日本といたしましては、西洋的な考え方ではなくて、やはり東洋の思想をもう一度その原点に立ち返って、日本こそが地球環境や自然との共生という観点からも、原発さらには原発の輸出ということについてもう一度考えていきたいなというふうに思っております。
 大変まとまらなくて申しわけありません。質疑時間が終了いたしましたのでこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。